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『帝国の条件』

読者の皆様へのごあいさつ

 

謹啓

 

今年は全国的に暖かな春となりました。年々温暖化の不安とともに、こうして次第に暖かな春を向かえますと、肌身の感覚でも、グローバルな気遣いが生まれてまいります。かつてマルクスは『経哲草稿』のなかで、サクランボの木といった「感性的確信(ヘーゲル)」の対象でさえ、「ほんの数世紀前にはじめて、交易によってわれわれの地域へ移植されたもの」であって、人間の社会的活動の産物なのだと述べたことがありますが、これを敷衍して言えば、私たちはサクラの木にも現代のグローバルな人間活動の影響を垣間見ており、これを反省的に捉え返す意識は、ますます「親密圏」を憂慮せざるをえない、ということになりますでしょうか。

このたび、満を持しての刊行となりました。拙著『帝国の条件――自由を育む秩序の原理』(弘文堂、2007.4.刊行、3,500円+税)をご高配賜りたく、皆様に乞う次第です。

小生は、9.11事件をニューヨークで目の当たりにして以来、国際秩序の問題について理論的な考察を重ねてまいりました。本書は、9.11事件以降の世界を読み解き、またネグリ/ハートの『帝国』を超えるような理論的地平を、全力で切り拓いております。

とりわけ本書は、「ネオリベラリズム(新自由主義)」と「ネオコンサーバティズム(新保守主義)」について、抜本的な思想的検討を試みた点に新味があるでしょう。また、トービン税と世界貨幣の育成や、あるいは、自生化主義の関税構想という政策のシナリオを描くことで、本書は、「善き帝国秩序のユートピア」を具体的に提案しております。

グローバリズムに抗する「もう一つの世界」を論じるための、ふさわしい叩き台となれば幸いです。なにとぞご一読をたまわりたく、お願い申し上げる次第です。

 最後になりましたが、皆様のご健康を、心よりお祈り申し上げます。

 

謹白

2007年4月16日

橋本 努